近年、海外のオペラやバレエを映画館で観られるプログラムが定着してきています。英国ロイヤルオペラハウスもその一つで、毎年「シネマシーズン」として傑作を上映しています。今回は、先日の来日公演で「ロイヤル・バレエ・ガラ」を観て感動した「白鳥の湖」をシネマシーズンでやっていたので、上映最終日に滑り込みで見てきました。
バレエ鑑賞初心者にこそオススメのシネマシーズン
私は数年前からいくつかの作品を映画館で観てきて、海外の一流の公演を大画面と大音量で鑑賞できるのはなかなか良いと思っています。3,700円でバレエ鑑賞ができると思えば安いですしね(映画として観たら高いですけれど)。
海外の全幕バレエを劇場で観るには1〜2万円はかかりますし、オペラはもっと高いですから、初めてバレエを観るのはかなり敷居が高いですが、3,700円なら飲み会1回分くらいなので、初心者にこそ映画館でのバレエ鑑賞をお勧めしたいです。
普通の映画は長くても2時間半程度だけれど、シネマシーズンは劇場と同じ様に幕間の休憩時間があるので、3時間以上かかります。
実際の舞台映像だけでなく、関係者へのインタビューや舞台裏の紹介映像などもあり、簡単な見どころ解説が聞けたりして、初心者にもファンにも嬉しい特典映像が満載でお得感があります。
今回の「白鳥の湖」シネマシーズンも、2幕と3幕の間に10分ほど休憩があり、舞台裏で芸術監督や指導者へのインタビュー映像があったり、3幕と4幕の間には今回主演したローレンの特典映像も流れました。
鮮烈で壮麗な愛の傑作リアム・スカーレット版「白鳥の湖」
「白鳥の湖」は、チャイコフスキーの美しく心を揺さぶる旋律に乗せた、古典バレエの不朽の名作です。英国ロイヤル・バレエ団では2018年5月、従来の白鳥たちが舞う湖畔のシーンはそのままに、気鋭の美術家ジョン・マクファーレンによる絢爛豪華な舞台美術と、当時弱冠31歳の天才振付家、故リアム・スカーレットによる新しい振付を加えた新しいプロダクションを上演しました。英国ロイヤル・バレエ伝統の演劇性を強調した演出によって、鮮烈で壮麗な愛の傑作が誕生したのです。
これまでの「白鳥の湖」とは少し異なる物語
これまでは、湖を支配する悪魔ロットバルトが姫を白鳥に変えたという設定でしたが、リアム・スカーレット版では、王座を狙う女王の側近がロットバルトで、パ・ド・トロワを踊るのはジークフリート王子の姉妹、そして王子と友人ベンノは特別な絆で結ばれているという設定になっています。
1890年代、女王の側近に化けた悪魔ロットバルトに操られた宮廷が舞台。
20歳の誕生日祝いの席で、女王に花嫁を選ぶことを強いられた悩める王子ジークフリートは、気晴らしに白鳥狩りに出かけ、白鳥の姿に変えられたオデット姫が夜のひと時、人間に戻る姿を見て恋に落ちる。オデット姫は誰も愛したことがない者の真実の愛の誓いだけが、この呪いを解くことができると語る。
だが結婚相手を選ぶ舞踏会で、ジークフリート王子は、オデットと瓜二つの妖艶なオディールに魅せられ、愛を誓ってしまう。ロットバルトは悪魔の正体を現し、女王の王冠を奪い取る。王子のオデットへの誓いは破られてしまい、オデットにかけられた呪いを解く方法を失ってしまう。
許しを乞う王子は湖畔にやってくるが、オデットは絶望し、死ぬことでしか呪われた運命からは逃れられないと悟る。
ベテランのローレンと期待の新星ウィリアムが主演。そして日本人キャストも大活躍!
今回観た映像は、2022年5月19日に収録された公演。2021年の出産から舞台復帰を果たした英国バレエ界の名花、ローレン・カスバートソンがオデットとオディールを繊細に、詩情豊かに演じています。今回の公演はローレンのロイヤル・バレエ団在籍20周年を記念し、特別なカーテンコールも行われました。
ジークフリート王子役は、映画版『ロミオとジュリエット』のフレッシュなロミオ役で人気が急上昇し、この5月プリンシパルに昇進した新星ウィリアム・ブレイスウェル。端正で美しい立ち姿と品のある佇まいが王子役にぴったりでした。
女王の側近で悪魔のロットバルト役は、ロイヤル・バレエを代表する名優ギャリー・エイヴィスが持ち前のカリスマ性で重厚に演じています。圧倒的な存在感を放つ富士額の側近と、得体の知れない悪魔が本当に見事でした。
そして指揮者のガブリエル・ハイネは、モスクワ音楽院を卒業後、長年マリインスキー劇場専属指揮者としてバレエやオペラ公演を振ってきた方。このたびのロシアのウクライナ侵攻でロシアを脱出し、出身地の米国に本拠地を移しつつ国際的に活躍しているそうだ。長年、本場のチャイコフスキーを指揮してきた彼のタクトにも注目して欲しいです。
そして、日本人キャストも大活躍しています。
王子と友情を越えた強い絆で結ばれている友人ベンノ役には、日本出身で躍進が続くアクリ瑠嘉さん。友人として王子を気遣いながら、パ・ド・トロワでは素晴らしい跳躍やピルエットを見せてくれました。
大きな白鳥の一人に佐々木万璃子さん。先日の「ロイヤル・バレエ・ガラ」では、ローレンの代役として急遽ウィリアムと「白鳥の湖」第2幕のパ・ド・ドゥを踊り、とても優雅で美しい白鳥を見せてくれました。最近では『くるみ割り人形』の薔薇の精などでも抜擢が続いています。
そして、小さな4羽の白鳥の一人と、イタリアの王女は前田紗江さんが踊っていました。
【振付】リアム・スカーレット (マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ原振付に基づく)
【追加振付】フレデリック・アシュトン(3幕ナポリの踊り)
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【美術】ジョン・マクファーレン
【出演】
オデット/オディール:ローレン・カスバートソン
ジークフリート王子:ウィリアム・ブレイスウェル
ロットバルト:ギャリー・エイヴィス
ベンノ:アクリ瑠嘉
小さな4羽の白鳥:ソフィー・オールナット、アシュリー・ディーン、前田紗江、シャーロット・トンキンソン
大きな2羽の白鳥:メリッサ・ハミルトン、佐々木万璃子
イタリア王女:前田紗江
舞台裏の紹介映像もある
幕間の休憩時間に舞台裏の紹介映像が流れて、これも初心者にはとても分かりやすくて良かったです。
伝説のプリンシパル、ダーシー・バッセルがインタビュアーになり、芸術監督のケヴィン・オヘアやミストレスのオルガ先生などに本作の見どころを聞いたり、初演当時の振付の話を聞いたり、今後のオペラハウスのシネマ上映作品についての紹介もありました。バレエだけでなくオペラ作品の紹介もあって、日本にはない芸術の横のつながりを感じました。こういうの、良いですよね。
そして、ローレンがマイムのところを解説しながら見せてくれたり、ウィリアムが王子を演じる上での想いやローレンがどのように役と向き合っていたかなどをインタビューで話してくれ、ファンにとっても見応えのある内容でした。
舞台稽古の映像だから、ローレンの衣裳が白鳥と黒鳥でチグハグだったり、ウィリアムの髪がホワホワしてたり、他の出演者が衣装を着ていなかったりして、いかにも舞台裏って感じがまた良かったです。
また、ローレンの在籍20周年を記念してか、出産後の復帰を記念してか、ローレンとカメラマンが制作した映像も流れました。2021年に妊娠と出産を経て、ふたたびダンサーとして復帰するまでの体の変化や心の変化をローレンが語りながら、コンテンポラリーダンスを踊る姿はとても強く美しく見えました。
まとめ
今回は、英国ロイヤル・バレエ団のリアム・スカーレット版「白鳥の湖」を映画館で観た感想をまとめてみました。劇場で見るライブ感はないものの、3,700円でハイレベルなバレエを大画面・大音量で観ることができて、私はとても楽しかったです。
- 映画館でのバレエ鑑賞は初心者さんにオススメ
- 特典映像もあってお得感満載
- ローレンとウィリアムの美しさを大画面で観られて眼福
来シーズンも「英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン」はいろんな傑作を上映するとのことですので、バレエもオペラもお得に観てみてはいかがでしょうか。
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