気ままにブダペスト生活 #53

ぶらり旅
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今日は、とてもいい天気でした。
9月下旬から急に秋がやってきて、朝晩はかなり冷え込むのですが、
日中、晴れていれば、散歩するのにはもってこいの季節です。

私は、昨日から緊張の糸が張り詰めたように、珍しくソワソワしていました。
食欲もあまりなく、読書に熱中することで緊張を紛らしましたが、
昨晩はなかなか寝付けませんでした。
なぜなら、今日はKemeny Denes監督と会う日だったからです。

私がなぜ、ハンガリー男子水球代表監督のKemeny氏と会うことになったのか?
8月、私がベオグラードへワールドリーグを見に行ったときに遡ります。
モントリオール世界選手権からブダペストに戻ってきて、休む間もなく、
セルビア・モンテネグロのノビサドへ富山水球クラブを追い、
疲れを感じながらも、その足で本来の予定であったベオグラードへ行きました。
世界選手権の決勝の熱が、まだ冷めることはなく、
私は世界の2つのトップチームの対決を再び見に来たのでした。
決勝戦の朝、私はハンガリーチームの練習を見ていたのですが、
チーム関係者以外ほとんど会場にいないにもかかわらず、
カメラを片手に、熱い視線を向けるアジア人に、監督は興味を示しました。
ベオグラードのTasmajdan(タシュマイダン)プールに、アジア人など皆無で、
監督が、そのアジア人をチラチラと見るのは、当たり前だったかもしれません。
「Jo napot kivanok!!(こんにちは!)」
突然、ハンガリー語を話したアジア人に驚愕した監督は、
「ハンガリー語が分かるのか?ちょっとこっちにおいで」と言ったのでした。
Kemeny監督は、少しだけ話をした後、自ら名刺を差し出しました。

これがきっかけとなり、私はKemeny監督にメールを送り、
自分の水球への思いを伝え、信じられないことに、
多忙極める監督は、私に短い返事を下さいました。
“明日からマンチェスターに行く。帰ってきたら時間を作るので、会いましょう。”

念願叶って、嬉しいはずなのに、この緊張感は、なんなのだろう?
自分のハンガリー語がほとんど会話として成り立たないこと、
英語が苦手で、自分の熱意をうまく伝えられるか自信がないこと、
そして、ハンガリー人なら誰でも知っている大物に会うという現実が、
急に大それたことをしているように思えたのです。
それに、Kemeny親子は、ちょっと気難しいということも聞いていました。
事実、私は父のKemeny Ferenc氏に、怒鳴られたことがあり、
また同じようなことが繰り返されるのが怖かったのです。
友人に通訳を頼むことも考えました。
しかし、私は、どうしても自分の言葉で水球への熱意を彼に伝えたかったのです。
優秀な監督ならば、言葉が完璧でなくても、きっと理解してくれる、と思いました。

待ち合わせのカフェは、少し高級感漂う雰囲気のいいお店でした。
店員と知り合いのようで、Kemeny監督が常連であることがすぐに分かりました。
「Jo napot kivanok! お会いできてとても嬉しいです。」
ここから始まる1時間の会話は、緊張の連続でした。

監督は、とても気さくにいろんな話をして下さいました。
私の片言の英語を理解して下さり、質問に答えるだけでなく、
日本の水球のことを聞いて下さいました。
私が水球通信に書いた記事を見せると、「これ、もらってもいい?」と言い、
ハンガリーの写真を何度も何度も見ていました。

「一番大事なのは、子供たちだよ」
13歳から17歳くらいに、いい指導を受け、たくさんの試合経験を積むこと、
そして、チームメイトとのコミュニケーションの仕方、ゲームセンスを磨くと共に、
ゲームを作っていく方法を身に付けることが、
いい選手を育てる秘訣だと監督は言いました。

*****
この世代の指導がきちんと行われなければ、素晴らしい選手は出てこない。
そういう観点で見れば、富山水球クラブの中学生が、
ハンガリーとセルビア遠征を行ったのは、とても良いということになるね。
経験をつかせると同時に、たくさんの試合を見なければダメだ。
ジュニア・カデットの教育環境を確立しない限り、強いチームは生まれない。
大人になってからでは、遅過ぎる。
大きなプールでなければいけないことはない。
事実、ハンガリーにはそれほど多くのプールがあるわけでもない。
しかし、子供たちは、プールを3つに区切って、その中で練習している。
泳力と体力は、別のトレーニングをすればいい。
要は、ゲーム運びのセンスやコンタクトテクニックを磨けばいいんだ。
小さな空間でも、それは練習出来るし、
小さな空間で出来なければ、大きな空間では出来るはずがない。
プールを3つに区切ることで、練習できる人数も増える。
そして、その中から光る子を選べばいい。

水球は、どの国でも、同じ問題を抱えている。
競泳より水球がメジャーところはなく、コストがかかる水球は、必ず嫌われる。
だから、ハンガリーも水球連盟を独立させたんだ。
今でも経済的に苦しい状況ではある。でも、変わっていくだろう。
若い選手の育成に、ほとんどの金が投資される。
それほど、重要なんだよ。
基礎的な知識やテクニックを徹底的に身に付けることが。
連盟内に、派閥のようなものがないわけではなく、
時に、やりにくい状況に陥ることもあるが、さほど大きな問題にはならない。
団体が小さいし、全員の目的がチームの勝利だからね。

新ルールについては、僕はそれほど大きな変化とは思っていない。
基本的には、今までどおりのスタイルでいい。
一番大きく変わったとすれば、攻撃時間の短縮だ。
攻撃態勢を作っていられるのは大体15秒くらい。
残りが5秒を切ったら、ディフェンスに戻り始めるのが鉄則だから、
実質、7~8秒間だけが勝負だね。
プレーの正確性を求められると共に、カウンターが増えるだろう。

レフリーについては、あまりいい感じは持っていない。
こないだのハンガリーカップ(Magyar Kupa)の決勝で、
二人の審判は、間違いを起こした。
Egerはとてもいいチームだし、仕上がりも良かった。
後半の流れは、明らかにEgerになっていたのにもかかわらず、
審判は、伝統的に勝利してきたVasas側に流れを変えた。
政治的な思惑が常に関係してくるんだよ。
まぁ、仕方がないことだ。どこの世界でも同じだから。
*****

カフェには、ハンガリーのサッカー代表選手なども来ていました。
Kemeny監督は、同じ常連仲間であろうスポーツ関係者たちと挨拶を交わし、
その彼らを私に紹介してくれました。
いつだったか、Kemeny監督がテレビのサッカー試合放送で実況したら、
非常に好評だったという話を聞いたことがありました。
サッカーファンなのだと思います。

結局、忙しい監督は1時間15分くらい、私とランチを共にした後、
「アテネオリンピックを編集したDVDがあるから、あげるよ」と、
車にあったDVDと「KEMENY」という本にサインを書いて、私に下さいました。
「帰国する前に、また会いましょう!!Szia!(じゃあね!)」

KEMENY
とうとうこの日が来た!! 楽しみにしていながらも、異常に緊張した。 前日は、なかなか寝付けなかった。 ハンガリー水球男子代表監督 Kemenyケメーニィ Denesディーネッシュ氏とのランチ 今年8月、ベオグラードで行われたワールドリーグス...

こんなに嬉しいことはありません。
私は、興奮冷めやらず、天気の良い爽やかなブダペストを一人散歩しながら、
この幸せを感じていました。
マルギット島の大きな噴水の近くのベンチで一休みしてから、帰ったのでした。
Kemeny監督は、何か出来ることがあったら、いつでも協力する、
と言って下さいました。
たくさんのアドバイスも下さいました。
水球に対する目の厳しさ、的確な判断とアドバイス、
本当に頼もしい、素敵な監督でした。

家に帰って、頂いたDVDを見て、アテネの感動を思い出しました。
栄顔が本当に良く似合うKemeny監督でした。

*にーあや* 感想をお待ちしています

Macky!メールマガジン「Viva Barcelona!」
発行者名:ni-aya
水球に魅せられて早や2年。世界水泳をきっかけに、バルセロナまで来てしまいました。 2年間ここで水球観戦しながら、のんびりスペイン生活を自由気ままに満喫します。スペインが好きな人、水球を知りたい人、バルセロナに興味がある方はぜひぜひご覧あれ!!
2004年のアテネオリンピックをきっかけに、水球が国技のハンガリー・ブダペストに魅せられて移住。日本へ一時帰国するのをやめて、そのお金をブダペスト生活に注ぎ込み、マジャール水球を自由気ままに満喫しています。

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